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No.01
 券売機の気持ち
ようこさん。



電車に乗って買物に行った。あちこち寄った店々で買物の都度に受け取った釣銭の小銭がたまりにたまりお出かけ用のおしゃれな財布は不様に型を崩し始めた型が崩れる程に膨らんだ財布はお出かけ用のおしゃれなバッグに今やすんなりとは収まらず不様な財布同様にバッグも崩れ始めている。他人からは気づかれようもない微々たる変化であるが誰に見咎められずとも自分は目こぼし出来ないのだ「小銭でぱんぱんに膨らんだ不様な財布をおしゃれなバッグにぎゅうぎゅうに詰め込んで歩いている私」恥かしさのあまりどきどきして汗が出てきたエスカレーターの段差につまづきそこらに小銭をばらまいたらと考えただけでめまいが・・悪い人にひったくられそうになったバッグから道に小銭がちらばってしまったらと思うと気分が悪くなり・・駆け込んだ化粧室で取り落とした財布から床中に小銭をぶちまけてしまったら・・もう死んでしまいたいっ。と小銭で膨らんだ財布はすでに恐怖そのものへと成長している。そんな汗をかきつつも死ぬよりまずとにかくは家に帰ろう電車に乗って買物に来たのだ電車に乗って家に帰ろうそしておしゃれな財布から小銭を小銭入れに移しほっと一息ついたならいつもの健やかな自分に戻る。と思うに到り汗で熱くなった脇を緩めて風を入れ駅を目指して歩き始めたバッグをかけた右肩から軽く添えたに見える左腕まで身体は緊張でバリバリである「ひったくられてはならない」「けつまずくのはもってのほか」「誤って取り落とすのもいけない」のである化粧室には立ち寄らない事にしたのはいうまでもない。駅に着き券売機を前にした時追い詰められた心に急に明るく光がさした「ここに小銭を投入し切符を買えばいいじゃない?おお素晴らしい名案だ券売機だって釣銭用の小銭をきっと喜ぶにちがいない!これぞギブアンドテイク一挙両得というものね」緊張は嘘のように一気にほぐれ喜々として小銭を券売機に投入する鷲づかみにしてじゃらじゃら続々と入れるもなかなか目的額に達しない。なんで?どうして?汗をかくほど大量の小銭だったのだ足りないはずは無いでしょう?しかし小銭は足りなかった。とうとうしまいに千円札を入れ購入ボタンをやっと押す。券売機しばらくムッと考えてじゃらじゃらじゃらっと小銭九百五十円なりを吐き出すと「こういう客が一番嫌だ」とののしった。さすがに申し訳なく思い一歩下がって黙礼をして小銭ありがたくまた財布へ。




MEMO:連載エッセイ「カレーなるいつもの日」でお馴染みの左槙子さんの小説作品です。独特の文体が魅力でファンも多いのです。かく言うワタシ、マニエリストQがファン第一人者です。

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