左さんのカレーなるいつもの日 archive3 



連載エッセイ●41
クリエイティブな夕食

 いろいろな出来事がテレビや新聞やインターネットから届けられてくる。それらを居間に座ったままで見聞きして、毎日いろいろ考える。
 先日、飛行機のエンジンに鳥が巻き込まれ、飛行機は川に不時着した。幸い、機長の判断と技術が優秀だったので人命は損なわれることなく、まことにめでたい限りである。飛行機と鳥の関係はお互い命がけ、飛行機に事故があると数百人もの人命に影響がある故に、空港では鳥へ向けて音波を出したり威嚇射撃したり、空から鳥を追い出そうとの試みが必死で行われているらしい。
 だけど、空港の作られた場所って、以前はどんな海辺だったのだろう? そもそも空は鳥たちの場所なんじゃないか、なんてふと思う。人類は地球上でおのれの利益を優先し、川を堰き止め海を埋め立て森を切り拓き山を削り崩し、他種を絶滅に追いやり、食えるものは捕って食い、どれほどの傲慢を尽くせば後悔できるのだろう。
 思えば遥か彼方のあのルネッサンスの巨匠たちあたりが、やたらと「神」を人間みたいに描きまくって以来、人類は自然や野生への畏敬の気持ちを失いっぱなしで、利己的に便利ばかりを追い求め、地球に対し傍若無人な路線を突き進んできちゃったような気がしたり、など。居間から思考は飛び火し、そこからエッセイを書いたりするうちに、朝食の後かたずけや洗濯物を干してないまま夕方になっていたりするんだから、私の一日がどれほど忙しいか、あなたに想像できるだろうか?
 わかってくれとは言わないが、16世紀のヨーロッパから21世紀の我が家の冷蔵庫前まで、戻ってくるだけでも重労働なんだよ諸君。週半ばには買い置きの食材も底をつき、午前中に買い物に行かなかったことが本当に悔やまれたが、ぎりぎりの時間で冷蔵庫前に立っているのだ。それから買い物に行く暇などあるわけない。
 こういう中でも日本人でよかったと思えるのは、ご飯さえあれば何とかなる、ご飯とそれに何かかけるもの、カレーなんて全く素敵、よし! かれーにしよう。箱入りのルーはあるけど肉も人参玉ねぎじゃがいももなかったその日、厚揚げと大根と白菜でカレーを作ってみた。これが、なかなかおいしいもので、ぜひやってみてください。あまたのレトルトカレーを食べ、カレーの包容力には毎度恐れ入ってる私だが、なんでもあり、ですよ、皆さん。料理はものつくりですから、クリエイディブ魂と家族への愛があれば、何が入ってもおいしい! 本当だよ。

写真:厚揚げで驚いてちゃ槙子の家族はつとまらない。写真はガンモのカレー。油で炒めないで、とにかく煮ちゃうのがコツらしい。by 大久保謡子(おおくぼ・ようこ)

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連載エッセイ●40
無目的の長所

 出勤前の夫がせっせと洗濯物をたたんでいる。
「出勤前の忙しいのにえらいですねえ、私は毎日家にいますのになかなか家事まで手が廻らなくて」
「今日は30分遅く出社するので時間がありますから」
「いつもありがとうございます」
 という夫婦の会話を3人の子供が聞いているのを、妻・母・主婦として、なんとなくまずい気もして「さて、家事でもするか」と言ったところ、思いがけなく全員から拍手されて実に複雑な思い。私としては、干して乾いた洗濯物を自分の引出しにしまうくらい子供達が各々にやったらいいじゃない? と思うのだ。
 夕方に洗濯物をとり込み、引き出しにしまう一連の作業が嫌いなわけでも出来ないのでもなく、信念を持ってしない。干しっぱなしのハンガーからシャツやパンツをとって着替える子がいても、それもよし。と思っている。
 はたからは私の怠慢にみえる暮らしぶりを「なんだ。おまえ、だらしないな」とせめてくる夫であれば、これこれの信念をもち、深い愛の由に決め込んでいるずぼらですと釈明もできるのだが、わが夫のすごい(やりにくい)ところは、決して私を非難せず、わが身をさいて放置された家事を「してしまう」。当然のことながら、世間の非難は一斉に私へ向けて「ずぼらだ!」と冷たい。
 娘が「お母さんみたいに早くなりたい」というのを、この子は私の素晴らしさを理解し、生きていく目標、素敵なお母さんとして認識してくれてるのだと、異様にうれしく、「どうして?」と尋ねれば、「だって、お母さん、いつもだらだらテレビ見てパソコンでゲームばっかり、時間になったらご飯作ってるだけじゃない、いいなあ」
 うおぉおお。と憤ったがその通りなので黙っていたら、夫が「あんた達が学校行ってる間のお母さんの働きを見たことある?」と弁護している。私としては立つ瀬がない。だけどそんななかで、ご飯はちゃんと作ってるという点は認められている事に焦点をしぼれば、悲観する要素など皆無である。おそらく、世間からレトルトカレーばっかり家族に食べさせてると思われているに違いないのだ。
 レトルトカレーを極める会は、ついに1000食を食べ超えて、まだ続けるつもりらしく、だらだらとずぼらでお気楽な主婦業もまだまだ続けるつもりらしい。もともと目的のない旅なのだ。主婦もカレーも。目的・目標があれば達成時を区切りに辞められるのに、どこまで行ってどうなるのか見当もつかない。ロマンだなぁと自惚れて、のほほんと行くんだ今日も。

写真:目的無くそこに在る物に美しさや意味を感じるのは見る側の人の感性。槙子と楽しく暮らすには感性の豊かさが重要なんですね。by 大久保謡子(おおくぼ・ようこ)

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連載エッセイ●39
鳥の効用

 コボウシインコを飼い始めて半年ほどになる。緑の身体に額が黄色いキビタイボウシや、グレーの身体に赤い尾羽根がかっこいいヨウムなどの大型インコとオカメインコとの中間の大きさで、大型インコと暮らしたいけど自信もスペースも無い、という我が家にはまさにうってつけの鳥である。
 おしゃべりも上手で存在感に申し分ない。リビングで日常の私たちの会話を毎日聞いて暮らしているので、笑う調子や子供を叱りつけガミガミっとはじまる私の声の抑揚を絶妙に模倣して、合いの手よろしく言葉を挟みこんでくる。
 その鳥がある日「ごにょごにょ〜っBAKAっ!」と言ったのを聞いて猛烈に反省し、その日から子供への小言から鳥が覚えたら困る言葉が消え、鳥の前での喧嘩も控え、暴言や侮辱語を意識して使わないように私は変わった。鳥がいなくても当たり前に悪い言葉は使わない家庭であれば、もともと悪い言葉など覚える隙も無かったろうに情けない。意味もニュアンスもわきまえず音だけで悪い言葉を真似てしまう鳥の記憶力には恐れ入る。
 鳥が、いわゆる物まねをするということは、外敵と同じ音を出すことで仲間を装おい保身する為だそうで、意味をわかり発しているのではない。とはいうものの、餌を入れるとすかさず「ありがとう」、会話の合間に良いタイミングで笑ったりされると、わかってるんじゃないかと思えてくる。
 鳥の効用に日々驚異を感じつ暮らしているが、新しく覚えた言葉を発声するのに2週間ほどかかるこの時間差が微妙に間抜けで面白い。世間が忘れた頃に「ぽ〜にょぽにょ」と壊れたように歌い始め、流行り廃りの激しさをも思い知る。鳥は陽気でよいのだが、「うるさい」というのもまた事実。効用あれば副作用もある。

 カレーの世界では、インドにアルツハイマー病患者が少ないことに着目した武蔵野大と米ソーク研究所が共同でスパイスの効用を研究し、ターメリック(ウコン)に脳細胞の損傷を防ぐ働きがあると確認し、アルツハイマー病治療の新薬開発の研究が進められていると報道されて話題となっている。つまり、ウコンは記憶力によいということらしい。とすると、すぐに受験生をターゲットにした「記憶力にいい受験直前カツカレー」みたいな商品が出るだろうなと予言できるが、効用あれば副作用もあるのを忘れないで欲しい。病によって損傷された細胞に効くということは、正常な細胞の能力が良くなる事と同じではない。なにもかもカレーで解決できるわけがない。

写真:末法の世を救えとばかり、壮大な期待の元に弥勒と名付けられた槙子家のミロク。なにもかも鳥に解決できるわけがない。by 大久保謡子(おおくぼ・ようこ)

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連載エッセイ●38
占いの秘密

 古今東西老若男女に例外なく、占いが人類は大好きらしい。恋人との相性、子供の進学や就職先、どんなペットを飼ったらいい? 家はいつ頃建てたら? 息子のお嫁さんとの相性、誰と結婚したらetc……だけどね、実際その占いの通りに行動する人っているのだろうか? と書き出したのだから占い批判だなとお思いでしようが、まあ聞いてください。
 槙子が今の夫と結婚しようかどうしようかと迷っていたとき、どんなに考えてみたところで、結婚相手になろうかと言う人が選べるほどいるわけでなく、この人一人しかいないのに、星占いやら血液型とあちこちあたっては行く末を占ったのだが、ことごとく相性は最悪。絶対お互いダメになると太鼓判まで押され、やっぱりもともと結婚向きの人間とも思えない槙子だし、辞めておこうかとまで思いはじめた頃、立ち寄った文房具店の階段踊り場に、100円で二人の相性占いをする電算機を見つけた。どうせ電算機も「やめとけ」って言うのだろう、明るい予想はもう出来ないほど各占いにやっつけられたネガティブ全開でデータを叩き込んだら、驚くべき結果が出た。
 電算機いわく[この二人は住む世界が違うのでまずお付き合い自体が「ありえない」全く両極である二人が仲良くいけるはずがない。そんな両者が結婚する確立は0%それでも結婚までこぎつけるとしたら120%の相性です]というもので、まあ、占いどもから寄ってたかってそこまでダメだといわれたからには意地になった。唯一プラスと出たこの120%を信じて結婚を決めて現在に至る。結果は大当たり! 本人が言うのだから間違いない幸せな結婚は、夫の忍耐の賜物なのだ。

 インターネットの世界でも占い流行りで、カレー占いまであるのだからびっくりだ。どういう根拠からそんなことになるのか見当もつかないが、カレー占いによると、左槙子のカレーは大塚食品のボンカレーゴールドだそうで、強引に決められて複雑な思いもする。
 とはいうものの、ボンカレーゴールドは大好きなカレーなので素直にうれしい。そのうえ「左槙子さんの本当のお父さんは加藤茶さんです」だそうで、知らなかったショックである。おまけに今日の運勢は「庭から温泉が湧くかもLEE5倍」という事なので、どうぞみなさん遊びに来てください。あまりの荒唐無稽さに、あきれはてても腹は立たない。なんだか愉快になる上に、こうしてネタにも使えるわけで、カレーはやっぱり素晴しい。

写真:月や星や花や水晶やカードやカレーやに、我が行く道を委ねて何とかなるんだもの。神秘ですねえ。by 大久保謡子(おおくぼ・ようこ)

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連載エッセイ●37
助手席考

 いかなるときも自分の安全を第一に考える私は、夫の運転する車以外にはめったに乗らない。助手席と呼ばれる運転席の隣にも、まず座らない。
 だいたいあの助手席という席名が気に入らない。運転免許を持たない私が、夫の運転に助手的行為が何でできるか?(ここで突然、近所で有名な変な夫婦の実話を思い出した。運転中のご主人が追突しそうになったとき、「前の車が止まってます」と注意しなかった奥さんが悪いと叱られた。そんな莫迦な話があるかと反論しようにも、お義母様が乗ると「ほら、赤ですよ」「ほら、歩行者が」とずっと脇から言ってるそうだ。これほど赤子的な人でも持てるのが運転免許証だとすれば、免許を持ってる持ってないは当人の価値にいかなる付加価値を与えるものではないとわかる)。
 とはいうものの、たまたま助手席に座っていたその日、左側に路上駐車していた車が車列に入りたそうにウインカーをつけた。親切な夫は速度を緩めてどうぞお入りと入れてあげた。と、その車、なんと我々の目前を横切って、向こう側の車線へUターンするではないか。助手席の私は運転免許は持ってないが、人としての常識がある。彼の車はどう考えても失礼千万、全く許しがたい。おもわず封印中の呪詛の言葉が全開で噴出し、むこう3年分ほどの悪しき言霊を打ち放ち、かなりスッキリさせてもらった。「おのれ、この無礼者っ!」だった彼の運転手が、しまいには「アナタの無礼ぶりのおかげでストレスが発散できた」とお礼の言葉が湧き出るほどに。
 ドライブを趣味としてストレスの発散になる、とよく耳にするが、なるほどはじめて共感できた。あなおそろしや。日本全国の道路上にはこんな呪いの念が渦巻いているのだ、と思うと、安全運転のみで安全が保たれているとばかりも言い切れないかもしれない。

 からいカレー、スパイス大盛りの刺激で発汗を促し、いわゆる毛穴を開くのは心にも身体にも良いことだそうだ。悪い念を受け取らない、身体にためない、人にとばさないで浄化するのにカレーがよい、だなんて耳寄りな話である。だから私はいつも心がきれいで幸せなのか、おほほほほ。
 というわけでその名もズバリ、からいカレーというカレーを食べた。赤く燃え上がる炎と白いターバンのインド人? パッケージを見ているだけで汗ばむ様な気魄。さぞかし辛かろうと気を張って挑戦したのだが、辛いにゃ辛いが、辛いだけじゃおいしいカレーとは言いがたいと悟った。微妙なのだ。

写真:全国の道という道にはなんらかの呪術が……と、こういう木を見ると確信できる。by 大久保謡子(おおくぼ・ようこ)

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連載エッセイ●36
3倍速の秘密

 小学生が大勢遊びに来て、にぎやかに遊んでいた。そのうち映画のDVDを見ようという話になりテレビの周りに集まってきたが、時間を見ると遊び時間内にとうてい見終わらないと思えたので、「途中で帰る時間になってしまう」と、めったに出さない口を出した。すると「3倍でみればいい」という子がいて驚いた。そんなことで きるんだかどうだか知らないが、受験勉強に追われて時間がない、遊びの時間も存分に取れない今どきの小学生は、映画を3倍速で見るのだろうか? 大丈夫かニッポン? と胸がドキドキしてしまった。ま、たまにせっかく遊びに来たのだから、他の事をして遊んでください。とその日、3倍速でのハリーポッターを見損なった私である。
 私が小学生だった頃、つい数十年前のことを思い出せば、暗くなるまで夏でも冬でも夢中で遊んで、時間に縛られることなく余暇だらけ、暇で暇でしょうがなかった。だから半端な大人なんだ、しょうもねえ、と切り返されてへこみたくもないので、子供たちに昔の暮らしぶりを例にとって話すのは控えている。それにしても習い事や塾に忙しく、週に一度友達を家に呼べるか呼べないか、土日に連絡してもまずつかまらない、だなんて子供がほんとにいるのが現代だ。見てるだけで可哀想で嫌になってしまう。余所の子とくらべて点がよければ500円もらえる子とか、テストの点で小銭を稼ぐことが当たり前、というより家族内で推奨されている家庭などざらである。「そんなのおかしいでしょ?」と勉強の成果への褒美として金銭は決して与えない我が家は、変態扱いされているかもしれないが、全くそんな評価は気にならない。小銭欲しさに親の前で勉強してみせる子供なんて、頭が良い子なわけがない。親子ともども、目を覚ませ! と、どやしつけたいが、この声が彼らに届くことはないだろう。

 3倍速で驚いているような小心者の私には挑戦する気も失せるほど、今年のLEEはジョロキアソースで30倍のところ45倍にまでなるんだそうだ。カレーの会でカレー好き人間と思われている私だが、辛さに強いわけではなく、ましてや辛いものが特別に好きなわけでもない。激辛カレーの前で簡単に降参してしまう。人それぞれ、好きなレベルを好きなように楽しめばいいと思うのですが、どっちがどれだけ辛さに強いかで、たまに競争しはじめる人がいる。そんなことでけんかになるとは理解に苦しむが、競争社会を生き抜いてきた人達には譲れぬラインが私より多いのかも、と思う。


写真:大木を眺める時間も区切られ限られ、ゆとり教育も惨敗し、人が育つにも難儀な時代だと思う。by 大久保謡子(おおくぼ・ようこ)

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